2018年からシリーズ展開をスタートしたアデリアレトロ。
開発したメンバーは筆者を含め、当時20代の若手女子社員3人でした。初めは商品を発売できるかどうかも分からない小さな企画にすぎませんでしたが、今では累計140万個の売り上げを誇るベストセラーシリーズへと成長を遂げました。
それから5年が経ちますが開発当時と変わらず、アデリアレトロはある女性社員の手によって新たなデザインが作られ続けています。
ファンから高い支持を得るレトロかわいいデザインを手がけるデザイナーとは一体どんな人物なのでしょう。
筆者:桐本(アデリアレトロ開発メンバー・SNS担当 )
アデリアレトロのデザイナーはどんな人?
杉本光
2011年入社 石塚硝子株式会社 ハウスウェアカンパニー 市販部 企画グループ デザイナー
武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科 ガラス専攻卒
杉本はこれまでテレビや新聞などのメディアから多数取材を受けてきましたが、今回は初の社内での取材。
他のメディアでは見られなかった杉本の人物像を解像度高めでお届けします。
アデリアレトロを一緒に開発した筆者から見た杉本
声が小さく、一見気弱な人のかな?という印象の杉本ですが、商品作りを一緒にしていると時に頑として譲らない意外な一面を見せます。口数も多くないのですが、彼女のデザインや商品の企画書は細かいところまでこだわりが詰め込まれていて本人以上に多弁な気がします。
今日はどんなお話が聞けるのか楽しみです!
石塚硝子へ入ったきっかけは?
筆者:杉本さんが石塚硝子にいなければアデリアレトロは生まれませんでした。入社のきっかけは何だったのでしょうか?
杉本:大学でガラス工芸を学びながら作品を作っていたこともあり、ガラス工房のスタッフとして働き、職人なんかになれたらと思って就職活動をしていました。工房スタッフの募集はそもそも数が少なくてなかなか希望するところに内定がもらえず、モノづくりという範囲を広げてメーカーも受けてみようと活動していたところ、石塚硝子に出会いました。
当時は昭和レトロなプリントグラスを作ることになるとは夢にも思っていませんでした。
筆者:当時の杉本さんには申し訳ないですが、工房に内定が貰えず石塚硝子を受けてくれてよかった…!そうでないとアデリアレトロは生まれなかったわけですから!
私の中で杉本さんといえば緻密な平面デザインというイメージを持っているのですが、それはいつ身につけたのですか?
杉本:実は平面のデザインは学生時代に勉強していません。元々可愛いお菓子の箱などは好きで集めていたのですが、自分でデザインするという経験はなかったです。
入社してから色々なグラスのデザインに携わっていく内に、グラスだけでなく箱を作ることに楽しさを見出していました。担当してきたパッケージは大体170点くらい。そこで鍛えられたのかもしれないです。
≪紙と箱のコレクション≫ヴィンテージも、現代のものもあります。
パッケージデザインを考えるときに役立ちます。
古いものに囲まれて育った幼少期
筆者:会社に入った当時はアデリアレトロを作るとは思ってもみなかったとのことですが、そのデザインはヴィンテージグラス通からも定評があります。元々レトロなものに興味はあったのでしょうか?
杉本:実家で両親が黒電話や化粧台やタンスなど古いものを使っていて、馴染みがありました。幼少期からそういうものに囲まれた生活だったので、実家を出て暮らすようになってからも自分で好んで買うようになりました。昭和の家具やお洋服は今では見ない変わったモチーフのものや、さりげなく可愛いものが多くて面白いです。
アデリアレトロの企画をスタートさせてからは、アデリア限定ですがヴィンテージグラスの知識がついて前よりさらにレトロなグラスへの愛着が増しました。絵の具の滲みやズレているところが可愛いなと思ったり、グラス以外でも昭和当時のカタログを読み込むのが楽しいです。
≪㊧ヴィンテージ皿のコレクション≫
ふくら雀の豆皿はお店の人曰く、江戸末期ごろの相当古いお皿のようです。カケがやヒビあるからと5枚セットで安く売られていたものを購入しました。前の持ち主が直した金継ぎの跡があり、形がかわいいだけでなく、長い間大事にされてきた感じがするところも気に入っています。
≪㊨古着≫
祖母の形見のブラウス。襟元やボタンのさりげないデザインが可愛くて気に入っています。元々白かったのですが、古いものでシミがついていたので自分で染め直しました。お気に入りのものはできるだけ永く使っていきたいと思っています。
レトロなもののどこが好き?
杉本:デザインの楽しさでしょうか。作られた時代や国によって、デザインや素材に様々な特徴があり、おもしろいと感じます。ユニーク系、きれい系、地味だけどさりげない可愛さのものもあり、見ていて飽きません。
完璧でないところも魅力的ですね。今まで集めたヴィンテージ品の多くは、それぞれに個性というか、弱点?がある場合もあるのですが、そこがむしろ気に入っています。
例えば、ヴィンテージの腕時計は手巻き式なので巻かないと止まってしまいますし、表示時刻も正確ではなくちょっとずつ遅れていきます。
水に濡れるのもNG。磁気帯びするのでスマホやパソコンを近くに置くことも避けないといけません。きれいなデザインに一目惚れして購入しましたが、繊細で扱いが難しいです。
レトログラスのプリントもズレや滲みがありますが、そこも愛嬌です。グラス一つひとつに個性があるように感じられて楽しいです。
人と同じで皆それぞれクセがありますが、それも魅力に感じています。効率的でスタイリッシュなものより、完璧でない、隙があるものが好きです。人間的な温かみが感じられてホッとするのかもしれません。
そしてロマンがあるところ。集めた物の年代はバラバラですが、大体は私より長生きしてきた物たちです。中には100年くらい前のものもあります。前の持ち主はどんな人だったのかとか、どんな想いで使われていたんだろう…と想像するとワクワクするし、長い時を過ごしてきたことにロマンを感じます。
≪㊧食器のコレクション≫ ≪㊨アンティークの腕時計≫
そんなところまで!?こだわりが詰め込まれたデザイン
杉本:やはりアデリアレトロを企画する時は自分が好きな「レトロ」というテーマだったので夢中になって取り組みました。先に語った昭和のグラスの滲みやズレの魅力を伝えたいと思い、それらを再現することに心血を注ぎました。そしてそんなグラスにつけるパッケージも、当時の空気を出来る限り取り入れられるよう工夫しています。
例えば、エンブレムの縁の「石塚硝子株式会社」「ADERIA GLASS」の文字は現在出回っているフォントではなく、当時のカタログで使われていた文字を踏襲して使っています。カタログは読み込んでいるので、可愛いと思った文字や枠のデザインは頭の中にストックして、使えそうな場をいつも探しています。
筆者:あの文字も再現しているんですか!?一緒に企画したはずなのに今まで知りませんでした。
でも当時のカタログのデータは残ってないですよね。まさかグラスのデザインの時のような(後述)作業をされたんですか?
杉本:そうですね、ちょっとでも手を抜くと昭和の世界観が崩れてしまう気がして怖かったので時間と労力がかかっても頑張りたかったんです。手作業で丁寧に描かれた昭和のロゴは、何ともない文字ひとつ見ても、とても味わい深いんです。それをパッケージにできるだけ反映させたいと思いました。
でもこんな細かいこだわりは、業務としての時間効率が悪すぎて自慢できたものではないと思っていたので人には言ってませんでした。
筆者:デザインの裏側の苦労をアピールしないのがなんとも杉本さんらしいですね笑
≪レトロなロゴの練習≫
レトロな文字が好きで、暇な時に資料を参考に手描きで真似して書きました。(スケッチブックのグチャグチャの線は息子にやられました笑)
レトロにとどまらず広がる杉本の技
筆者:メディアで見かけたことのある方は杉本さん=アデリアレトロのイメージが強いと思います。他の商品もぜひ紹介してください。
杉本:そうですね、アデリアレトロを企画する前から石塚硝子でデザイナーとして多くの商品を作ってきました。代表作はつよいこグラスという子供の食育をテーマにしたグラスの企画で「つよいこグラスnico」と「つよいこグラスかくれんぼ」です。
「つよいこグラス」は私が入社するずっと前からあったロングセラー商品ですが、そのグラスにプリントで加飾し、パッケージデザインをリニューアルした企画です。
≪㊧つよいこグラスnico≫≪㊨つよいこグラスかくれんぼ≫
デザインのアイデアはどこから?
筆者:どちらも可愛いですが、レトロと子供向けとはジャンルがずいぶん違う気がしますが、どこからデザインのアイデアは出てくるのでしょうか?
杉本:私の場合、商品を使ってくれる人のことをできるだけリアルにイメージすることを大切にしています。自分が「ユーザーの立場だったらどうだろうか?」となりきって考えたり、ユーザー像に近い人が身近にいたら聞いたりして意見を取り入れるようにしています。ユーザー像が自分と重ならない時もあるので頑張って想像するようにしています。
≪「つよいこグラスかくれんぼ」のミーティングの様子≫
上記の子供向けグラスを企画した時もまだ自分に子供がいなかったので、社内の子育て世代の方に「お子様が好きな動物は?」などアンケートを取りました。
時にはリサーチを重ねて、ひらめいたアイデアを深掘りしながらデザインに落とし込んでいきます。
意外とアナログ!デザインの裏側
筆者:実際のデザイン作業はどうやってるんですか?
杉本:アデリアレトロに関して言えば特殊な作業で、ヴィンテージ品にトレーシングペーパーを巻いて鉛筆でなぞったものをパソコンに取り込んでデータ化しています。
筆者:アデリアレトロは特別な作業が必要なんですね、他の商品と違う点は他にもありますか?
杉本:お客さんとの距離感が他のシリーズとは違いますね、ユーザーの方と一緒に商品を開発するようなスタイルは今まで経験したことがありませんでした。SNSを通じてユーザーからの情報提供、要望をもらえることがとても嬉しいです。
筆者:みんなで作るアデリアレトロですね!
杉本:それです!最初はデザインに使うヴィンテージグラスを自力で集めないといけないと思っていました。SNS担当から「借りたらいいのでは?」と提案されたときは目から鱗でしたね。自分では入手できない柄がいっぱいあると思っていたので、コレクターの皆様にはとても感謝しています。おかげさまでいろんな柄を復刻できています!
≪ファンミーティングの様子≫
ヴィンテージグラスを貸してくれたコレクターさんやファンの方との繋がりを大切にしています。
また、柄一つひとつにストーリーを付けるところも他の商品とは違った点ですね。柄から想像して、時代背景なども考えながら文章を作り上げます。
プライベートでは一児の母
筆者:毎日アデリアレトロやそれ以外のグラスも作るため奔走する杉本さん、プライベートではどんな生活を送られているのでしょうか。
杉本:子供が2歳で、今は自分のペースを模索中です。仕事と子育てのスイッチの切り替えが難しいですね。夫のサポートがあり、家事は半々。柔軟な考えでやっていますが、限られた時間でアデリアレトロだけでなくたくさんの商品を開発しなければならないのが大変。物事の同時進行が苦手なんです。
でもデザインする仕事が好きなので、なんとか工夫しながら楽しくやっています。
杉本:仕事もプライベートも関係なく、レトロな物が好きです。
子供が生まれる前の話で最近はあまり行けてないのですが、休みの日には蚤の市、家具屋さん、古道具屋さん、古着屋さんなど、古い物を見に行っていました。そこで買ったり、人から譲り受けたり。時代や国にはあまりこだわりなく、かわいいと思ったものを集めています。
≪アクセサリーのコレクションとレトロなラジオ≫
アデリアレトロはもはや日常に溶け込んでいますね。息子が障子に穴をあけてしまったときに、せっかくなので障子修繕シールをアリスの形に切って補修しました。息子もズーメイトのヒョウくんが大好きなようです。
最後に
グラスや、箱の細部に至るまでデザインにとことんこだわる杉本。
この記事で彼女がアデリアレトロを作るキーパーソンであることは皆様にもご理解頂けたと思います。
しかし、可愛いグラスたちが工場で生まれて皆様のお手に届くまでには彼女以外にも多くの人たちが携わり、それぞれの現場で人知れず高いパフォーマンスを発揮しています。
こちらの「アデリアレトロを作る人」のコーナーではそんな普段は表舞台に出てこない陰の立役者にスポットライトを当ててご紹介します。
次回もお楽しみに!
一体誰が爆発的に再ヒットさせたのかなと調べてこちらにきました。つよい子グラスももちろん知っていたのでびっくり。元々良い商品があって、消費者目線の杉本さんのアイデアがマッチして素敵な商品が生まれたのだと分かりました(^^)
あまり知ることができなかったデザイナー杉本さんを深く知れて、より一層アデリアレトロが好きになりました♡
2歳の息子さんがいるとは思えないほどかわいらしい杉本さん♪♪
これからも素敵なグラスを作り続けてほしいです☆
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